(c)Kozue Ichikawa 2004




 『リンゴ姫とキンギョ姫。』の出版から約七年。この度重版が決定し、7月初めには第三版が発行される事となりました。
この本を作つた時には兎に角必死で出版された後の事など考えてもゐませんでしたが、今もこうして売れ続けてゐる事は本当に嬉しい限りです。
この本が何時までも輝きを失はないやう、本の制作に関わつた多くの方と読者の皆さんに感謝の気持ちを込めて、これからも人形制作に取り組んでいきたいと思ひます。(平成廿三年六月)

※このページは刊行当時(平成十六年)に綴つた制作日記です。




2004.5.16

 『リンゴ姫とキンギョ姫。』このタイトルは、平凡社の日下部さんがつけてくれた。「かわいいですね!」と一発で決まり。「モー娘。(もーむすまる)みたい。この子たち、アイドルですね。…ということは、日下部さんはつんく?」
 2004年4月23日、名プロデューサー日下部さんの手により、私のかわいい人形たちはデビューしました!

おまけ 幻のコラム

おまけ2 人形のラフイメージ

★制作日記★

撮影その1 2004.2.27
 撮影初日。朝9時に日下部さんがプカプカ堂へ迎えに来てくれた。さすがに人形13体は1人で運べないので、五日市街道でタクシーを拾い、カメラマン林雅之さんのスタジオ、中野新橋へ向かう。林さんとお会いするのは初めてなので、ちょっと緊張するなぁ。でも林さんのフォコンのマネキンの写 真(『別册太陽・人形愛』参照)は私の胸を震わせるものがあり、この撮影はとても楽しみなのだ。
  実は夕べも寝るまでお人形たちを手直ししていた。時間のある限り、納得のいく所まで作り込みたい。このお人形たちは今までと違い、もっともっと多くの人に見ていただけるのだし、形としてずーっと残るものなのだ。私が死んでからも、人に見てもらえるのかも知れないのだから。
 林さんのスタジオに入るとマネキンがお出迎え。この子は林さん仕様にメイクされているそうだ。
 「う〜ん、いいね。いいね〜。」と、言っていたかどうかは忘れてしまった。でも、林さんが真剣な眼差しでお人形のセッティングをしている姿はなんだか微笑ましい。
 後ろでドキドキしながら、「わが子のアイドルデビューを見守る母親の心境ってこんな感じかしら」とつぶやく。
 手前が日下部さん。ちょっぴり心配そうに見守っています。
 画像には写っていないのだけど、アシスタントの岡本さんにもお世話になった。この4人で今回の撮影は進んで行く。スタジオでの撮影に付き添ったのは今回が初めてだったので何もかもが新鮮で面 白い!(実は過去のイラストレーター時代にも雑誌の掲載用にお人形を撮影してもらったことが何回かある)
 撮影はほんとにワクワクするものだった。1体撮り終わる度にポラを拡大コピーして壁に貼っていく。この子はこんな顔をしているのかぁ!とまた新たな発見があったり、アップで恥ずかしかったり。スタジオ撮影は2日間を予定していたのだけれど、どんどん進んでなんと1日で撮り終わってしまった。初日がスムーズに進んだことを喜びながら今日はお開き。さぁ明日からロケだ!



★制作日記★

撮影その2 2004.2.28
 撮影2日目。スタジオでの撮影を2日間予定していたのだけれど、がんばって昨日1日で終わらせたため、今日はロケに。スタジオが1日で終わったので、気分的に余裕がある。
 10時に林さんのスタジオに集合し、今日のスケジュールについて話し合う。その結果 、とあるレジャー施設に行くことになった。「日下部さん、背中におぶって入園して下さいよ。私は抱いていきますから」というと本気でいやがってました。冗談ですよ。 

 林さんの車に乗り込み、某レジャー施設へ。ドライブ気分でちょっぴりワクワク!
 コンなの撮影して遊んじゃいました。
 「ひつじだ〜!」とはしゃぐアシスタントの岡本さんと私。しかし、エサをあげない私達には見向きもしないひつじたち。けっこうふてぶてしい。
 さて、このショットはどこでしょう?すぐわかりますね!
 ここも何となくわかるかな?
 撮影中の林さんと岡本さん。
 林さんの今までのお仕事、撮影秘話など聞きながらなごやかムードで撮影場所へ向かう。お昼も食べずすぐ撮影開始。あちこち歩き回って林さんがベストなポジションを見つけ撮影する、といった感じ。こういう風に撮って欲しいというのは伝えてあるので後はお任せ。昨日の感じでお任せできると確信したので何も心配はない。
 2体目の撮影で林さんもうなるほどの写真が撮れた。こういう何でもない、普通 なら見のがしてしまうようなところに目をつけるのはさすが。「一体ここはどこ?」というような写 真が何枚も撮れた。
  しかし、お昼抜き&寒い、のはちょっときつかった。カメラマンって大変なお仕事だ、と改めて思った。よりよいお人形を作るにはやはり努力(というのかな?作業だけでなく、アイディア等も) が必須だけど写真も同じ。創作というのは、どこまでこだわれるか、だと思う。いい写 真が撮れていく、ゾクゾクする瞬間がそこにはあった。



★制作日記★

撮影その3 2004.3.1
 あいにくの雨。雪まじりの寒々しい1日となった。撮影は無理だろうなぁと思いながらもとりあえず林さんのスタジオへ。日下部さんとは現地で落ち合い、私は林さんの車に人形と一緒に乗せてもらうことになっていた。日下部さんと電話で連絡を取り、今日のロケは中止となった。
 明日のロケの打ち合わせをしたり、林さんの写真をいろいろ見せてもらったり。撮影はなかったけど実のある時間だった。林さんのマネキンの写 真はすごい。マネキンってこんなに美しかったのか!と目が釘付けになる。上手くは言えないのだけど、マネキンという形ー人形と言っても人形でないひとがたのものーをすごくアーティスティックにとらえているというか。マネキンのその奥にある本質を撮っているような気がした。
 林さんに写真を撮ってもらえて嬉しい。そのことを伝えると、林さんは「好きだからね」とさらりと答えた。


★制作日記★

撮影その4 2004.3.2
 ロケ2日目。朝9時に林さんのスタジオへ。 車に機材と人形を積み込んで「昭和のくらし博物館」へ向かう。日下部さんとは現地で待ち合わせ。
 林さんが車を停めに行き、私達は人形と機材を持って先に行く。住宅の間の細い道を歩いていくと突き当たりに、ほったて小屋(ごめんなさい)のような小さな家があり、おじいちゃんが座っていた。え〜っ昭和のくらし博物館ってもしかしてここ!? しかもおじいちゃん付き?と内心不安に…。しかし脇にまた細い道があり、昭和のムード満点の家が現れた。こたつに向かうおじいちゃんと文化人形の絵が私の頭を駆け巡っていたので、かなり安心した。
 撮影は快調に進み、午前中に3カット終了。名残惜しいが次のロケ地へ向かう。
  「昭和のくらし博物館」は、もうちょっとじっくり浸りたかったというのが正直なところ。ああ、昔こんな家にすんでいたような…と懐かしくなる、昭和の家だ。このときは2階で病院の展示をやっていて、昔の診察室や待ち合い室がセットされていた。秋(だったと思う)には着物の展示もあるそうなので、興味のある人はチェックしよう!
 次のロケ地は日暮里。日があるうちに撮影をしたいので今日もお昼抜きだ。

 人形を手に駄菓子屋へ入って行くと、「うちは人形は扱えないのよ」とおばあちゃん。人形をこの駄 菓子屋で販売させてほしいのだと思われたらしい。写真を撮らせてほしいと言うと、そんならかまわないよ、ということで撮影開始。

 ここも、どのショットかすぐわかりますね。日暮里に行くことがあればチェックしてみて。とても感じのいいおじさんがいたよ。
 日暮里を離れ、谷中へ。

 あら!人形があんなところに。

 谷中は絵になるところが多いみたい。
 日暮里の駄菓子屋横町へ。何年後か忘れてしまったけど、再開発でここはなくなるらしい。ちょっと淋しいね。
  撮影をしていても次々と人が訪れる。業者っぽい人、一般の人。文化人形をぶら下げていたら、商品と間違えて手にとってじっくりながめる人も。「それは売り物じゃないんです!」とひとり慌てる私でした。

★制作日記★

撮影その5 2004.3.2
 ロケ2日目の続き。駄菓子屋を離れ、生地問屋街へ。カラフルな布の中で撮影したい、という私の要望であちこち見てまわる。カラフルというよりは、渋い布地のところで撮影したけれど、逆に人形の鮮やかさが引き立つ感じになったと思う。
 駄菓子屋の後だったのでみな大量の荷物。「チョコリングとかキャラメルとか袋に写 ってて恥ずかしいから、私のリュックに入れてあげますよ」と日下部さんに言うと、「あなたなんて仕入れじゃないですか」 そう言われて自分の手許を見ると確かに。大量 のカレーせんやら飴やら…。
  その後、日暮里を離れて谷中へ。谷中の路地で撮影したくて、事前にいくつか調べたのだけど、やはり最後はフィーリング。あちこち歩き回ってベストな場所を探す。「お人形は私が持ちます!」と言い張ったので日下部さんが重たい機材を持つことに。

歩く歩く。ひたすら歩く。
まだまだ歩く。
 撮影中の林さんと岡本さん。このショットは、言わずと知れたあのページですね。

↑お土産の愛玉子とレトロな店内→

 駄菓子屋さんのお土産。撮影が終わった後、「さあ、買い物しよう」と林さんのかけ声。喜びいさんで買い物する私の後ろで、機材を片付けながら「私も早く見たい〜」と慌てる岡本さん。
 みな思い思いの品を買った。林さんはスーパーボール、私は駄菓子と金魚のバケツ、ビーズなどたくさん買い込んだ。面 白い形の消しゴムを大量に買い、岡本さんと半分ずつわけた。気がつくと、日下部さんはキャラメルを1キロも買っていた。

 この日は一番きつかったかも知れない。寒いし、お腹はすくし、歩き回るし。だけど、いい写 真が撮れること、人形の魅力を最大限に生かせることを一番に考えるとそんなことはどうでもよかった。
  まあまあ撮影は順調に進み、とうとう後1枚というところになった。木造の長家のようなところが雰囲気がよかったので、人形を玄関の前に置いたりして、みんなで検討していたところ、突然玄関から人が出てきた。撮影の意図を説明しまだ検討中だったので、と謝ったが、やはりいい気分ではないようだった。「あなた方だけではないんです」とその人は言った。谷中は写 真を撮りに訪れる人が多く、許可もとらずに人の家を撮影していく。それは常識としておかしいのではないか、と。
 そこでの撮影はやめて次の場所を探すことにした。歩きながら林さんは「あの人の気持ちはよくわかる」と言った。私も、自分がその立場だったらやはりいい気分ではない。

  次に訪れた喫茶店でも撮影を断られ、ちょっぴりしょげ気味に。めげずに次の喫茶店「愛玉 子」で聞いてみると一発OK。そこの名物愛玉子を注文し、撮影に入る。日下部さんと私は先に愛玉 子をいただく。「すきっ腹に愛玉子かぁ…」と心の中で思ったが 食べてみると案外美味しかった。愛玉子とは台湾の果物で、その種を水で揉むとゼリーのようになるという。この店ではレモンシロップをかけていただくのだ。店内も、本の中の写 真の通り。なんだか懐かしくて落ち着く喫茶店だった。

 これで撮影は終了。しばらく一緒に仕事をした、林さん岡本さんとお別 れなのは少し名残惜しい気がする。人形たちをタクシーに積み込んで、みんなに見送られながら林さんのスタジオを後にした。タクシーから見えるこの日の夜景は、妙にきらきら輝いて見えた。